【補助金の落とし穴(1/3)】開発は外注できない!
ケイエスピーがJST(科学技術振興機構)の補助金に向けて作成した経理書類の束
スタートアップにとって研究開発補助金(助成金)は有用だ。ベンチャーキャピタルに対する第三者割当増資のように、創業メンバーの持株比率を下げる必要がない。銀行借入れのように返す必要もない。支給を担うAMED(日本医療研究開発機構)は2020年度に1272億円、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は同1589億円の予算をそれぞれ与えられた。公的研究開発費の提供機関はほかにも潤沢に存在する。
ただ一方で「補助金は面倒くさい」とよく言われる。首尾よく獲得してさぁ経費に充てようとすると、いつも通りの業務ができなかったり、聞き慣れない書類を作らなければならなくなったりする。スタートアップにとって何がどう面倒で、やってしまいがちなミスとは何か?かながわサイエンスパークに入居する、公的資金適正運用支援協会(kenkyuhi.jp) 代表理事の蒲池光久氏に聞いた(聞き手=ケイエスピー 大槻智洋)。
―― スタートアップや研究機関と契約して補助金の経理処理をアドバイスしたり、その業務を支援したりしていると聞きました。
蒲池氏:それだけでなく提供側の依頼によりスタートアップに対して経費処理を指導したこともあります。2018年度は「NEDO専門(経理)カタライザー」としてAIベンチャー十数社を支援しました。これまで膨大な「不適切」な経費処理を見てきましたが、受給側に悪意は大抵ありません。ただ公金を使うが故に不可欠なステップを、受給側が踏んでいない。だから提供側は「不適切」と判断するのです。
―― 特に注意すべきは、何にお金を使うときですか?
蒲池氏:外注費ですね。私的流用事件がありましたから厳しくチェックされます。しかも「外注先企業はあくまでも『手足』でなければならない」という縛りを、受給企業があまり理解していません。
―― 手足?どういうことですか?
蒲池氏:外注先に知恵を求めてはならないのです。補助金をもらった企業の知恵に基づいて外注先は作業するだけ。アウト事例を示しましょう。ある受給企業はこんな文書を、外注先に提出させていました。
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○年○月○日
X社 御中
見積書
ソフトハウスY
■作業内容
YはXが作成した演算ロジックを基づき、RTLコーディング(ハードウェア記述言語を用いたプログラミング)を実施します。加えてYはコーディング結果を論理合成しFPGA評価ボード上で検証します。Y
■スケジュール
○年○月○日~○年○月○日
■弊社開発体制
下記の者がX社エンジニアと作業をすることを前提とし、システム要件や仕様は両社協議の上決定します。
○部 課長 ○○○○
○部 主任 ○○○○
■お見積り金額
○○○○円
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これでは外注先が開発を担い知恵を出したと、補助金提供元は見做します。「開発体制」「システム要件や仕様は両社協議」と書いてありますからね。X社はシステム要件や仕様をしっかり記述した「要求仕様書」を外注先に渡す。そして作業費を見積ってもらわなければなりませんでした。
―― 補助金を使う以上「研究」や「開発」は委託できない。委託できるのは「作業」だけ、と理解すべきですか?
蒲池氏:そうです。提供元は知恵を具現化する者に、補助金を直接提供する使命を負っています。ピンはねする者がいてはならない。ですからX社は「要求仕様書」だけでなく、外注が必要な理由を記した「必要理由書」や、Y社を選んだ理由を記した「業者選定理由書」も、作成しなければなりませんでした(続く)。