再生・細胞医療分野支援

平成30年度 再生・細胞医療産業化連携プロジェクト採択企業 <遺伝子治療研究所>

~ 遺伝子治療の未来を切り拓く ~

遺伝子治療研究所は、安全で効率の良い遺伝子治療法を世界中に普及させることを企業理念に掲げるバイオベンチャーです。当社の遺伝子治療技術の特徴は、患部へ治療用遺伝子を届ける運び屋として、アデノ随伴ウイルス(AAV)を活用する点にあります。当面の目標は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、アルツハイマー病などの治療薬を開発し、難病で苦しまれている患者さんのもとに届けること。遺伝子治療研究所の執行役員である吉沢創太氏にお話を伺いました。

 
アデノ随伴ウイルスベクターに着目

遺伝子治療研究所は、当社代表取締役の浅井克仁と自治医科大学の村松慎一教授によって、2014年5月に設立されました。立ち上げ当初から、モレキュラーイメージング解析や画像診断等がご専門の宇都宮セントラルクリニックの佐藤俊彦先生にも協力していただいています。

当社取締役でもある村松先生は、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療の研究において、世界的な第一人者の一人です。私たちが開発を進める遺伝子治療は、村松先生の研究成果がベースになっており、治療用の遺伝子を運ぶベクター(運び屋)としてAAVを応用する、革新的なアプローチです(図1参照)。例えば、病気の原因となる遺伝子の欠損に対し、AAVの中に欠損している遺伝子を入れて、AAVを患部の細胞に投与し、そこで遺伝子を発現させることで治療を行います。

村松先生は、2007年からAAVベクターを用いた臨床研究に取り組まれており、治験ではなく研究レベルで作った薬になりますが、先天性の疾患であるAADC欠損症で8例、パーキンソン病で8例の治療で患者さんに投与し、改善がみられることを確認されています。

図1:筋萎縮性側索硬化症(ALS)の遺伝子治療

 
自社開発のために生産設備を導入

遺伝子治療研究所の設立から2年半程は、AAVベクターの製造を外部委託して開発を進めていました。ただ、商業スケールでAAVを製造している企業がなかったこと、製造開発を外部に依存してしまうと開発のスピードが落ちる恐れがあることなどから、2016年に、自社によるAAVベクターの製造開発を始めました。社内にクリーンルームや200リットルの培養タンクを始めとして、AAVベクターの生産に必要な設備を整えています。なお、複数の開発テーマを並行して進めていますので、治験用などの複数種類のAAVベクターの生産に対応できるよう、本社と同じ殿町地区で、新たに第2工場の立ち上げを進めており、年内には稼働させる予定です。

 
AAVベクターは何から作るの?

AAVベクターを作るための原料としては、HEK293とSF9の2種類が挙げられます。HEK293は、細胞生物学の研究に昔から使われているもので、ヒト胎児の腎由来の細胞株であり、組織培養で増やすことができます。HEK293を用いてAAVベクターを製造すれば、効果があるものができることが、既にわかっています。ただし、HEK293を用いると、接着培養であるため、生産性が低く、製造コストが高くなってしまいます。

一方、Sf9は、蛾由来の昆虫細胞です。Sf9は浮遊培養できるため、大量生産が可能で、大幅に製造コストを下げることができます。したがって、Sf9を用いた製法は商業化に適しており、遺伝子治療を普及させるのに向いています。

 
治療対象となる疾患は?

AAVベクターを用いた遺伝子治療は、対象疾患ごとにAAVの中に異なる遺伝子を入れることで、さまざまな疾患を治療することができます。例えば、後天性の疾患は、病気の原因が複数あることが多く、原因となる遺伝子の特定が難しいのですが、先天性の小児疾患では、病気の原因となる遺伝子を特定しやすいため、遺伝子治療がやりやすくなります。私たちは、このような先天性の小児疾患にも着目して、研究開発を進めています。

今年度は7つのテーマ(対象疾患)について、研究開発に取り組んでいます。筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病といった神経系の疾患のほか、肝臓における代謝性の小児疾患などの治療に向けた研究を進めています。なお、私たちが推進する遺伝子治療は、1回の治療薬の投与で生涯にわたるような長期的効果が期待できるという、大きな長所があります。

 
どこまで出来ているの?

現在、動物での安全性を確認している段階であり、そのための試験薬の製造に取り組んでいるところです。

ただ、商業化に向けては、製造工程の改良、治療薬の価格の引き下げ、治療薬の輸送や管理など、解決すべき課題が残されています。

AAVベクターの製造工程については、精製の工程をさらに改良し、生きたウイルスの収率向上を図る必要があります。

また、米国で発売された遺伝子治療薬は、1人の患者さん当たりの価格が2億3千万円とも言われており、私たちはそれを数千万円程度に抑えたい、そして将来的には生産性を高めて数百万円程度まで引き下げたいと考えています。そのためには、SF9の早期立ち上げも、重要な課題の1つとなります。

国の薬の輸送に関する規制も厳しくなっていますので、ウイルスを凍結して輸送する際の温度管理や記録、病院での保管管理などを適切に行うことも課題になります。

これからも製造技術を磨き、生産性を高めてコストを下げる努力を継続していきます。現状では、遺伝子治療薬は極めて高価ですので、これを私たちが打破して、遺伝子治療の普及を加速させていきたいです。遺伝子治療で世界をリードしていけるような企業になれればいいですね。

(取材日:2019年10月3日)


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