コラム

平成30年度 再生・細胞医療産業化連携プロジェクト採択企業 <細胞応用技術研究所 >

細胞応用技術研究所(L-CAT)は、実用化された再生医療技術を全国のクリニックに普及させることをミッションとする大学発ベンチャーです。当社は、聖マリアンナ医科大学の再生医療の技術シーズと全国のクリニックの現場ニーズを結びつけ、新たなビジネスの仕組みを創造し続けています。細胞応用技術研究所の代表取締役である井上正範氏にお話を伺いました。

再生医療の普及を目指す!

細胞応用技術研究所は、聖マリアンナ医科大学の井上肇特任教授(形成外科・再生医療学寄附講座)によって開発された再生医療の技術を普及させるため、2012年2月に設立されました。井上先生は30年以上にわたって培養表皮を用いた再生医療の研究に取り組まれており、500件を超える症例に携わられています。なお、井上先生には、当社の取締役として最高科学責任者を務めていただいています。私たちは、既に実用化され、世の中の役に立つ医療技術を広く全国の患者さんへ提供することを目指しており、企業理念として「再生医療をもっと身近に」を掲げています(図1参照)。

設立当初は、多血小板血漿(PRP:Platelet-Rich Plasma)を用いた潰瘍(かいよう)の治療に着目し、この治療法を普及させるための事業展開について検討を進めました。具体的には、糖尿病の患者さんにみられる足の指先の潰瘍や、寝たきりの患者さんの床ずれで傷めた皮膚等に関する、再生医療のマーケティングなどを行いました。

PRPは、海外ではさまざまな用途に使用されています。そこで、私たちは形成外科や皮膚科のみならず、整形外科、美容外科、歯科など、多様な診療科のクリニックを訪問し、当社の技術やビジネスの仕組みを説明する一方、医師の意見を聴き、それに応えることでお客様となるクリニックを少しずつ開拓していきました。
なお、全国のクリニックを訪問すると、医師から必ず「こんなことはできないの?」と聞かれます。クリニックのさまざまな現場ニーズを把握しているのは、私たちの大きな強みの1つになっています。

 

PRPの提供など、独自のビジネスモデルを構築

ここで細胞応用技術研究所のビジネスモデルについて説明しておきましょう。私たちは、聖マリアンナ医科大学や他の研究機関などで実用化された再生医療の技術を、北は北海道から南は沖縄まで全国のクリニックで利用できるようにすることを目指しています。そして、その実現のために必要な機器(例えば、細胞の輸送に必要な装置等)があれば、メーカーと共同開発して製品化します(図2参照)。

現在、PRPに関してはビジネスの仕組みが確立しています。クリニックで患者さんから採血した血液を外部の細胞加工メーカーに送り、そこでPRPを作製し、冷凍輸送してクリニックへ届けます。当社と細胞加工メーカーとはライセンス契約を結んでおり、私たちが保有する細胞の加工技術や輸送技術などをメーカーに供与しています。実際には自由診療により、しわ取りや頭髪等の美容整形、変形性関節症の治療といった整形外科などの分野で、多くの患者さんへ提供されています。

 

培養表皮を用いた治療の事業化

まだ詳細な内容をお話しすることはできませんが、皮膚系の疾患を治療するためのビジネスを立ち上げる準備を進めており、早ければ今夏以降、患者さんへの提供を始める予定です。患者さんから少量の皮膚を採取し、細胞加工施設に輸送して皮膚を培養します。この培養表皮を患者さんに移植することで治療を行います(図3参照)。なお、細胞加工施設で培養した皮膚の一部は保存しておき、複数回の施術に対応します。

一方、従来の方法による皮膚の培養では、マウス由来の細胞とウシ由来の成分を使用しています。培養表皮にこのような異種由来成分を使用する場合、患者さんにとって、アレルギーや感染症といった潜在的なリスクが懸念されます。そこで当社では、将来、異種由来成分を使わない培養表皮の製造方法を実用化していきたいと考えています。

 

細胞解凍装置を開発

当社では、脂肪幹細胞や線維芽細胞などを対象に、培養した細胞を凍結したものを、クリニックで解凍するための装置を開発しています(図4参照)。現状、クリニックで患者さんから採取した細胞は、外部の細胞加工施設へ送られ、治療日に合わせて培養された細胞がクリニックへ返送されるのが一般的です。複数回に分けて治療が必要な際に、その都度、患者さんから細胞を採取して培養すると、コストもそれだけかかってしまいます。細胞加工施設でまとめて細胞を培養しておき、それを凍結保存し、1回の治療に必要な分だけ出荷すれば、コストを下げることができるのです。そこで私たちは、凍結したまま届けられた細胞を、クリニックで簡単に解凍できる装置を開発し、今夏に発売する予定です。なお、装置の開発に当たっては、航空機のエンジン等を製造している、金属の加工や温度管理の得意なメーカーと共同開発しています。

 

今後に向けて

当社の事業の柱は、『PRP』と『培養表皮』の2つです。PRPについては、既に事業化できていますので、今後、膝や腰等の整形外科、ドライアイ等の眼科、不妊治療の産婦人科などの分野で、さらに適用疾患を増やし、用途拡大を進めていく計画です。また、培養表皮については、今まさに事業化しようとしているところですが、全国のクリニックで治療を受ける患者さんが、一番利用しやすいような形、満足していただけるような形で提供したいと考えています。

私たち自身は、iPS細胞に代表されるような最先端の医療技術を扱わなくてもよいと考えています。それより、いま提供できる再生医療技術を、大学病院などの大きな病院へ行かなくても、身近なクリニックで提供できるようにすることが、私たちが果たすべき役割だと考えます。例えば、北海道の患者さんが再生医療を受けたいとなった場合、聖マリアンナ医科大学病院まで来なくても、北海道のクリニックで医療サービスを受けられるようにしたいですね。

そのために、細胞加工施設や細胞の輸送の仕組みなど、個々のクリニックが自前で対応できない部分を私たちが用意します。そして、たくさんの患者さんに再生医療を届けるために、最適な技術を持つ企業を探して提携し、製品開発を行います。また、再生医療を普及させるためには、患者さんの医療費の負担を軽くする必要がありますので、細胞の製造コストや輸送コストなどの削減にも取り組んでいきます。5年後、10年後には、再生医療がもっと身近になり、誰もが受けられる治療の選択肢の1つになっていれば嬉しいですね。