再生・細胞医療分野支援

平成30年度 再生・細胞医療産業化連携プロジェクト採択企業 <日本薬理評価機構>

 ~ 社会が抱える課題の解決を目指して ~

一般社団法人 日本薬理評価機構(PEIJ:ペイジ)は、”make a future together”の精神の下、大学でもなく営利企業でもない、新しいタイプの研究所として、大学や企業と協働しながら、社会が抱える課題の解決を目指しています。同機構の事業には、「iPS分化細胞技術等を活用した医薬品の次世代毒性・安全性評価法」「人材育成」「健康医科学」という3つの柱があります。具体的な取り組みの内容について、日本薬理評価機構の皆さんにお話を伺いました。

 

心毒性評価法の国際標準化の議論に貢献!

日本薬理評価機構(以下「PEIJ」と表記)設立の背景としては、図1の上段に示すようなiPS細胞技術を応用した医薬品心毒性評価法に関連する米国の動きがあり、日本がこの分野で遅れをとらぬよう、日本の関係者が協働する必要があったこと、加えて、図の下段に示すように、国の健康・医療戦略において、「iPS細胞技術を応用した医薬品心毒性評価法の国際標準化への提言」を2020年頃までの達成目標として掲げていること、などが挙げられます。

図1

このような中、PEIJは、厚生労働科学研究費補助金の医薬品等規制調和・評価研究事業において、「ヒトiPS分化細胞を利用した医薬品のヒト特異的有害反応評価系の開発・標準化」のプロジェクトが立ち上がるに当たり、それを下支えするため、2014年5月に設立されました。このプロジェクトは、国のコンソーシアムであるJiCSA(Japan iPS Cardiac Safety Assessment)によって運営され、国立医薬品食品衛生研究所やPEIJを始めとして、大学や製薬会社などが参加しました。

PEIJがプロジェクトの中で果たした主な役割として、データシェア等の国際的なルールの調整、データ解析アルゴリズムの作成・無償公開、JiCSAの研究者が試験方法やデータ等の検証活動を行うための場の提供、JiCSAデータのアーカイブ化の環境づくり、MEA Parserの国際提供などが挙げられます。

例えば、データ解析アルゴリズムの作成では、データの解析や多角的な視点からの評価を、迅速かつ簡便に行える支援ツール(iSAT:iPS Integrated Safety Assessment Tool)を開発しました。iSATは、心筋細胞の活動データの解析において、従来は研究者が自身の目や手を使って行っていた解析を、自動的にソフトウェアで支援することができます。これにより、研究者の労力を減らすこと、ヒューマンエラーやデータの誤差等を減らすことができます。

また、各種MEA(multi electrode array)機器のrawデータを取り込んで、共通バイナリデータにWindowsパソコン上で変換(変換後のデータフォーマットも合わせて公開)する「MEA Parser」を作成し、New BSD Licenseでの国際公開を行いました(図2参照)。私たちは、MEA機器のrawデータを蓄積し活用することの有用性を検証し、データベースにrawデータを格納することを提言しています。医薬品の心毒性評価法の標準化に関する国際的な議論の中で、1つの役割を果たすことができたと考えています。

図2

 

アダプターとして、Organ-on-a-chipの活用を促進

近年、Organ-on-a-chipの実用化に向けた研究開発が急速に進められています。そして、Organ-on-a-chipを用いた各臓器(肺、心臓、肝臓、腎臓、腸、血液脳関門等)の生理学的性質の再現により、Organ-on-a-chipの毒性試験や安全性試験への活用、およびバイオマーカーの同定等への活用が期待されています。このような中、私たちは2017年1月に、PEIJチップセンターの運用を開始しました。同センターでは、リアルソリューションの提供を志向しており、活動のコンセプトとして、アダプター、製作支援、解析支援、情報提供の4つが挙げられます(図3参照)。

図3

具体的には、企業や大学の研究者のニーズに応え、Organ-on-a-chipのデザイン、試作、試験、データの解析や検証など、個々の研究者の足りないところを補う形で支援しています。PEIJはOrgan-on-a-chipのデザインや試作などついて、国際的なネットワークを持っており、世界的に見ても最先端の技術を持つデザイナーや試作企業と連携しています。日本でOrgan-on-a-chipの利用が進むよう、私たちがアダプターとして企業や大学の皆さんと併走することで、日本の研究が加速すればたいへん嬉しく思います。

このほか、ヒトiPS細胞由来分化誘導細胞の品質管理の向上などに取り組んでおり、ブレインビジョン株式会社との共同研究により、培養中の心筋細胞の活動を無染色かつ非侵襲に計測することが可能な装置を開発しました(図4参照)。


図4

 

レギュラトリーサイエンス人材を育成!

PEIJはレギュラトリーサイエンス(regulatory science:規制科学)にかかわる人材育成にも取り組んでいます。例えば、研究室で新しい発見や大発明をする、未曾有の災害に遭遇する、といった場面に直面した際、どのように行動するのが良いのか、オンリーワンの正解など存在しない中、自分の頭で考えて適切に対処する必要があります。これまでの経験、情報、知識などを総動員して、潜在的な危険性も含め、自分で適切な判断ができるような人材が求められます。私たちは、このような見たことのない問題に対処する力を養うためには、子供の頃からの育成が大切であると考えています。

具体的には、2018年3月から「中高生が主役の科学研究所」を常時開設しています。中高生は『PEIJジュニアリサーチャー』として、解放されたPEIJの研究室で、好きな時に好きなだけ、最先端の研究を間近で見たり、実際に参加したり、世界最先端の研究を調べたり、子供の科学論文を書いたり、その成果を製薬企業の研究者の前で発表したりすることができます。現在、5名の中高生がPEIJジュニアリサーチャーとして活動しています。例えば、高校3年生のジュニアリサーチャーは、自らテーマを設定し、関連英語論文を読み、新しいプロジェクトのプランを考え、PEIJの研究者とディスカッションを行い、プロジェクトを自らブラッシュアップして、プランを完成させています。

また、2019年2月から毎月1回程度、「未来科学者フォーラム」を開催しています。地方からの参加が可能なウェッブ会議形式で、国内外の第一線の研究者からのメッセージや参加未来科学者の関心をもとに、中高生の間で自由にディスカッションしています。2月の第1回フォーラムでは、「食生活と食の安全性」をテーマに議論を行いました。

 

今後に向けて!

PEIJのコンソーシアムでの活動としては、現在、「かながわ再生・細胞医療産業化ネットワーク(RINK)」の幹事や「ヒトiPS細胞応用安全性評価コンソーシアム(CSAHi)」の管理事務局を務めています。

一方、私たちは、今後も医薬品の薬効、安全性、毒性の評価において、役割を果たしていきたいと考えています。さまざまな研究テーマが残されている中、特に子供さんの病気に着目しています。例えば、SMA(脊髄性筋萎縮症)という難病について、どの部分を治すことで発症を抑えることができるのかなど、Organ-on-a-chipを用いて解明していきたいと考えています。また、大学と共同研究で、神経に関する薬理をリアルタイムでモニタリングするためのイメージング手法の開発を進めています。このように、アダプターになるだけでなく、自らも課題解決のための研究に取り組んでいきます。

これからも、社会で足りないところを補う、自分たちが研究で役割を果たせるところは果たす、とった活動を通して、世の中に役立っていきたいと考えています。10年後には、ジュニアリサーチャーとして研究活動を行った中高生が社会で活躍している、そんな姿を見るのが楽しみです。