修了式記念講演レポート

KSPビジネスイノベーションスクール修了式記念講演  2019年11月28日(木)

「クロネコヤマトの満足創造経営」
ヤマトホールディングス株式会社 取締役会長 山内 雅喜氏

ヤマトホールディングス株式会社 取締役会長 山内 雅喜氏

28回目を迎えたKSPビジネスイノベーションスクール。修了式の記念講演としてヤマトホールディングス株式会社 取締役会長 山内雅喜氏を講師としてお招きしました。
講演では、ヤマトグループが掲げる「満足創造経営」や、経営環境の変化に対する判断を支える「理念」や「価値観」について語っていただきました。
この講演の中から、経営リーダーにとってヒントになるお話を抜粋してお届けします。

これまでの100年とこれからの100年

100年続く2つの理由

社員数225,125人(2019年3月末時点)を擁するヤマトグループは、その母体となるヤマト運輸を創業した1919月11月29日から、ちょうど100年を迎えました。
100年続く企業は、100社あっても3社しかありませんが、存在し続けるということは、世の中やお客様に選ばれてきた結果だと思います。
100年続いた理由は2つあり、ひとつは、「イノベーションを繰り返しながら新たな価値を提供し続けてきたこと」、そしてもうひとつは、「より正直で、より正しい会社でありたいと考え経営してきたこと」にあります。

イノベーション

かつて、ヤマト運輸では、スキー宅急便やゴルフ宅急便、クール宅急便など新しいサービスを次々に生み出し、「依頼主の利便性向上」を図ってきました。しかし、2000年頃から「本当に喜ばれるサービスを提供すること」を考えて事業戦略を変更し、メール通知サービスや荷物の受け取り場所の変更を受け付けるといった、依頼主ではなく「受取る側の利便性向上」も併せて重視することにしました。
お金を出すのは"依頼主"です。ただし、「依頼主はなぜ、荷物を出すのか」、それは受取る側にお届けしたいからであり、受取る側が喜ぶサービスに価値があると考えました。そして当社では、「本当に喜ばれるサービス」とは、受取る側にとっても便利であることとして方向転換しました。
これが「イノベーションを繰り返しながら新たな価値を提供し続けてきたこと」のひとつの表れです。

正直で正しい会社であること

ヤマト運輸が宅急便をスタートさせたのは1976年ですが、今までにない新しいサービスだったため、行政や運送業者などから反発がありました。新しいことを始めようとすると、必ず抵抗勢力が現れるものです。宅急便の歴史はこの対抗勢力との戦いの歴史でした。
例えば、1983年に、それまであったMサイズ、Sサイズに加え、「もっと小さな荷物を送りたい」というユーザーの声を受け、さらに小さなPサイズの取り扱いをスタートさせようとしました。しかし、運輸省の答えはNO。
そこで、当社は新聞に「6月から宅急便のPサイズを発売いたします。運輸省の認可が遅れれば、発売開始日は認可後となります。」と広告を打ち、5月の末に今度は「宅急便Pサイズの発売を延期いたします。」とまた広告を出します。そして延期になった理由として「運輸省の認可が遅れているため」と告げます。
この広告後、世間では『なぜ、運輸省は認可しないんだ』と話題になりました。この広告で我が社はお客様を味方にできたのです。そして、世論に支持されたPサイズは7月に発売を開始することができたのです。
当社では、世の中のためになることはやるという信念があります。そして、勇気を持って進んで行く。すると世の中の人が判断してくれます。
これが「より正直で、より正しい会社でありたいと考え経営してきたこと」のひとつの事例です。

今後のヤマトグループ

ヤマトグループでは今後、BtoCからBtoBにも広がるEコマースの拡大・加速や、労働人口の減少、物流のボーダレス化、ICT・AIの進化などの課題に対応しながら、さらなる100年を目指していきます。
例えば、物流のボーダレス化を睨んで、アジア各国にクール宅急便を展開するためには「国際標準化」への対応が必要です。製造業やサービス業には国際標準化がありますが、これからはルールメーキングの時代です。世界に認証されたサービスとすることで、社会から信頼されるよう取り組んでいきます。
また、サービスを向上するためには付加価値を高め、同時に効率を上げる必要があります。そのためにデジタルを活用することが重要となります。ヤマト運輸では配達ルートを組み立てる際に、デジタルデータを活用した集配の効率化が進んでいます。しかし、ただデジタルデータに任せるだけでなく、セールスドライバーの利便性を考えて彼らの意思を反映できるようになっています。デジタルばかりに頼っていると、人の存在や働き甲斐はどこにいってしまうのか。人が使うことを第一に考えたデジタル化を進めていく必要があります。
当社は人を中心に据えた考え方をもって経営をしています。宅急便のネットワークを活用した高齢者の見守りサービス「まごころ宅急便」や、自動運転やドローンを活用した空飛ぶトラックの研究なども、この考え方にもとづき取り組んでいます。


当社が守り続けた価値観

価値観

誕生してから守り続けてきたのが「価値観」です。
企業、あるいは組織を経営・マネジメントする場面において、企業、あるいは組織が「何のためにあるのか」を示すことが一番大事だと思います。つまり経営の価値観です。
価値観は企業が存在する上で変わってはいけないものです。しかし、お客様のニーズもビジネス環境も変化します。そのため、サービスや戦略、組織の体制などは改革していかなければなりません。
したがって、変えてはいけないことは何なのかを明確にし、社員で共有することが重要です。
当社にとって変えてはいけないものは、「世のため、人のため」、「サービスが先、利益は後」、「安全第一、営業第二」、「お客様の立場で考える」、「全員経営」です。そのため、お客様にとってより良いサービスを提供することを社員全員が意識しています。
「世のため、人のため」を社員全員で共有し続けてきたこと、それがあるからこそ、変えるべきことを変えてこられたのだと思います。

経営理念

ヤマトグループでは、「社会的インフラとしての宅急便ネットワークの高度化、より便利で快適な生活関連サービスの創造、革新的な物流システムの開発を通じて、豊かな社会の実現に貢献します。」という経営理念を掲げています。
インフラにとって重要なのは「持続性」です。持続性があることで「信頼性」が生まれます。インフラを続けることは大変ですし、責任や怖さもあります。しかし、これをやり続けるという強い意思を持って邁進しています。

管理型から自律型へ

変化の厳しい時代に従来の「管理型」で決めようとすると間に合わなくなります。新しい時代の経営スタイルは「管理型」ではなく、「自律型」だと思います。
その自律型の組織で必要なポイントは次の5つであり、
(1)権限移譲~自分で決められる。
(2)小集団~少数だから精鋭。
(3)責任の明確化~全ての責任を負う。
(4)共有~目的・情報
(5)見える化~自分で見る。
この5つのポイントを推進しています

経営リーダーにとって必要な判断

経営者の覚悟

経営者の覚悟

経営リーダーの役割は、「ビジョンづくり」と「企業文化づくり」です。
しかし、ビジョンや企業文化を示し続けることは大事としても、それだけでは浸透しません。
大切なのは、トラブルが起きたとき、どのような判断をするのか、どのような考え方に基づいて決断するかです。それを繰り返すことで、社員は体感としてビジョンや企業文化を感じ取るようになります。
ただし、トラブルの時に決断したことが上手くいくかはわかりません。選択肢があるとしてもどちらが良いかわからないことがあります。それでも、経営者には決めたことやリスクを取る覚悟が重要です。

クロネコメール便の廃止

1997年、ヤマト運輸では書類や商品カタログなどの信書にあたらない軽量な荷物を運ぶサービス、クロネコメール便をスタートさせました。しかし、利用者が禁じられている信書をメール便で送ったため、警察の事情聴取を受けたり、書類送検に至るような事例も発生していました。そして、安全な利用環境や利便性をこれ以上維持するのが困難になったとして、2015年にクロネコメール便を廃止しました。実は、メール便の売上は1,000億円を超えており、廃止は大きな決断でした。
それまで利用されているお客様に申し訳ないとともに、会社として売上が落ちるという怖さがありました。それでもお客様が書類送検されるようなことがあっては問題です。この時、売上が落ちることより、お客様が安心して使えるサービスであることを優先させるという決断をしたのです。

伝えたいこと

皆様にお伝えしたいことが3つあります。 (1)自分の価値観をしっかり持つ、(2)自分のビジョンをみんなと共有する、(3)自分の幅を広げる、ことです。
(1)や(2)は今日お話した内容です。(3)自分の幅を広げるとはどういうことでしょうか。
今後、さまざまな変化が起きてきます。変化に対応するためには、興味や好奇心を持って知見を広げる努力をし続けなければなりません。多くのセンサーを持って、関心ごとを広めていく努力をしていくべきです。
リーダー確固たる価値観をもってそれに基づき、どのような判断をするのか、こうしたことをリーダーは意識して事業をけん引していただきたいと思います。

プロフィール

山内 雅喜 氏

山内 雅喜 氏 ヤマトホールディングス株式会社 取締役会長

1961年1月11日生まれ。
1984年 ヤマト運輸株式会社入社
2005年 執行役員 東京支社長、執行役員 人事総務部長
2008年 ヤマトHD株式会社執行役員 兼 ヤマトロジスティクス株式会社 代表取締役社長
2011年 ヤマトHD株式会社執行役員 兼 ヤマト運輸株式会社 代表取締役社長
2015年 ヤマトHD株式会社代表取締役社長
2019年 ヤマトHD株式会社取締役会長 現在に至る