(株)日立コンサルティング 経営戦略部 企画・マーケティンググループ テクニカルディレクター 水谷世希氏

未来の予測ではなく、未来を描く。それが新事業 ― (株)日立コンサルティング 経営戦略部 企画・マーケティンググループ テクニカルディレクター 水谷世希

「社会が直面する課題にイノベーションで応えます」と掲げ、「未知の領域に、独創的に取り組む」開拓者精神を持つ日立グループ。その日立製作所で数々の新事業に携わり、ビジネス化への厳しさや醍醐味を自ら体験、現在はそのノウハウを生かすべく、日立コンサルティングでイノベーションや新事業創出に挑戦し続けている水谷世希氏。
新たな需要を喚起する新事業の醍醐味を、自身の体験を交えながら伺った。

 

l 「あるはずなのに、まだ無いもの」を世の中に伝える

――水谷さんは社内で、新事業にまつわる数々のプランを創出してこられましたね。

1997年に日立製作所の中のビジネスシステムを創出する組織にいた頃、「ナローキャスティング」というものを提案しました。携帯電話に好みの情報だけを配信するというサービスです。

今となっては当たり前のことですが、当時はまだ携帯電話は“モシモシ、ハイハイ”と通話だけに使われているもので「3千万台程度しか普及しないだろう」と言われている時代でした。

でも携帯電話業界を調査してポテンシャルを感じたんですね。これは単なる電話でなく、メディアになると思いました。

マスへの「ブロードキャスティング」ではなく、個々人に合わせた情報を発信する「ナローキャスティング」ができれば、パーソナルメディアや生活リモコンとしての新しい価値を生むことができる。一人一台誰もが携帯電話を持ち歩いている未来の世界から想像したら色んなアイデアが膨らんできたんです。ナローキャスティングはそんなアイデアの一つでした。

――その頃、KSPの新事業マネジメントスクール(現ビジネスイ ノベーションスクール)に通われたと。

はい。最後の課題で、自分のビジネスプランをプレゼンするのですが、このときに「ナローキャスティング」のプロトタイプを作りました。

社内技術にあった博物館の音声ガイドシステムを活用してハードのイメージを作り、コンテンツを自分で考え、妻のナレーション協力で録音して発表しました。といっても世の中にまだ無いサービスですから見た事の無い人にどうやってイメージしてもらうのかが重要です。

そこで最終日のプレゼンテーションではイッセー尾形ばりの一人寸劇で利用シーンを披露したんです。サラリーマンが満員電車の中で遠慮がちに新聞を広げて情報取得しているシーンから、携帯電話で好きな情報を簡単に聴いているシーンへの変化を演じました。

その甲斐あってかスクールでは最優秀賞をいただくことができました。とはいえ、世の中に無いものを伝えるのは難しいですね。

スクールではアイデアをビジネスプランにして、具現化、社内展開していくプロセスなどを学べたことがとても有意義でした。この時の学びが、現在の新事業創出のコンサルティングにも大いに役立っています。

 

未来から発想して、生活者の肌感覚で具現化する

――水谷さんは社内でアイデアマンとしての存在力があるようですが。

結局のところ「ナローキャスティング」は会社の新事業として花は咲きませんでしたが、社内で色々と動き回ったことで人脈も広がり、「水谷はアイデアをもって動く人物だ」と認めて下さる人に出会うことができました。

2000年の初め頃、ITバブル時代に「日立もコンシューマーに対してネットビジネスを展開する」という社長直属の新事業推進室ができました。この時にメンバーになれたのもそれがきっかけだと思います。

その時には、世界初の「携帯電話通訳サービス」を発表しました。当時の音声認識技術でもここまでできるという成果の発信でしたね。限られたセンテンスですが、携帯電話に日本語を話しかけると、10か国の外国語に通訳してくれるというサービスです。

例えサービスのアイデアがコンセプチュアルに面白くても実現するには様々な協力が必要です。幸い、日立グループには眠っている技術がたくさんあります。そこからイノベーションが生まれることもあるでしょうから、私はできるだけグループ内を横断的に動くようにしています。

――オープンイノベーションとして実績は?

2003年に東急不動産と地元NPO法人と組んで、千葉県の大規模ニュータウンに地域コミュニティサイトとして「ライフサポートシステム」をトライアルとして構築しました。家を買うと日立のタッチパネル端末が最初から付いてくるんです。

無線LANで家中どこでも使えて、子供からお年寄りまで簡単に使える。そのスタイルは今で言えば、まさにiPadですよね。

そこで知りたい情報は何か。生活者にとって大事なのは自分の身の回りの情報が簡単にすぐ手に入ることですよね。自治体、商店などの地域ネタから家族の予定表まで生活情報をブログ、SNSの先駆けのようなシステムを作ることで地域の人が簡単に生活情報を発信できるようにしました。

これも今ならわかって頂けると思います。きっとナローキャスティングの頃から、「生活者のコミュニティ」に対する未来への強い意識が自分にあったのだと思います。

否定されるのは当たり前、それでも一歩前へ

――新事業を考えるとき水谷さんが大事にしていることは?

「誰を助けたいか」、個人にフォーカスすることです。自分が創り出したいサービスを利用する生活者の顔を具体的に思い浮かべて発想するように心掛けています。

また、今を未来に延長する「フォーキャスト」ではなく、意識を未来に飛ばしそこから「バックキャスト」します。そのアイデアが世の中で当たり前になっている世界を想像するんです。それが無いことがおかしいというくらいにイメージできれば、そのサービスが有効だという自分の中の確証ができ、克服する課題が見えてくるんですね。

「未来を予測するのではなく、未来を描く」

そしてそれを本当に実現したいという意志にまで深化していく。自分の根幹にある価値観をどういうテーマで突き詰めていくか、それが事業家に求められることなんだと思います。

――起業家へメッセージをお願いします

時代の先を行かなければ新しいアイデアではないので、アイデアというものは基本的には否定されるものだと覚悟した方がいいですね。

むしろ否定されないのであれば新しさは無いということだと思います。否定されて掘り下げる。形にして示す。それを繰り返すそのプロセスが大事です。そのプロセスを通してビジョンを突き詰めていく。

あるタームの中で、発散と収束をどれだけ行えるかが大切です。アイデアが初期段階と違うものに変化していくことは当然のことだと思います。自分の仮説に固執して自説の正当性を検証するのではなく、探索を通して得た新たな発見や発想をどんどん受け入れていくことが必要だと思います。それでも譲ることのできない何か、それがコンセプトであり、自分の意思だと思います。

「こんな未来を創り出したい。あの人のことを幸せにしたい。何が何でもこれを実現したい。」それくらいに思える何かを探し続けて欲しいと思います。そのためには立ち止まっているのではなく一歩踏み出してみることが大切だと思います。

プロフィール

水谷世希 / Seiki Mizutani (株)日立コンサルティング 経営戦略部
企画・マーケティンググループ テクニカルディレクター

1988年:(株)日立製作所入社
 ・(株)日立総合計画研究所
 ・(株)日立製作所 情報システム事業本部
 ・(株)日立製作所 ビジネスシステム開発センター
 ・(株)日立製作所 コンシューマネットビジネス推進本部
 ・(株)日立コンサルティング など
神奈川サイエンスパーク(KSP) ベンチャービジネススクール 第7回 最優秀賞受賞

KSPとの関わり

1998年に、第7回KSP新事業マネジメントスクール(現ビジネスイノベーションスクール)を受講し、
ビジネスプラン最優秀賞を受賞